2009年9月12日土曜日

割り切りストーリー

「ああ・・・。やだー!そんなの、気にしなくていいのに。」
 蒼衣は、なんだそんなことか、というようにほっとした顔をしていた。
「気にするよ。お願いだから・・・高価なプレゼントは、オレがもう少し稼げるようになるまで待っててくれないかな?」
「別に、お金じゃないもん。気持ちだもん。」
 蒼衣がムキになって言う。
陽は、さらに蒼衣との格差を感じてしまった。『お金じゃない』という言葉は、金に苦労したことのないヤツが言うたわごとだ、と思っているから。人間、食い物にも住む場所にも、飲む水にだって金はかかる。
「じゃあ、これから気持ちだけにしようか?高くなくても、蒼衣が喜びそうなものを探すのが楽しみだったんだけど。金払えば、いくらでもすごいの買えるかもしれないけど・・・。キリないだろ。」
 金額と愛情が比例するような贈り物をしていたら、近い将来にオレは破産してしまう。こう言って悲しまれるのも辛いが、このまま曖昧に無理して高い買い物をし続けるのはもっと辛い。
 しかし、蒼衣は、なぜか・・・嬉しそうだった。
「陽っ!」
 がばっ、と、陽の首に抱きついてくる。
「すっごい、嬉しい!私も、陽がどんなの欲しいかすっごい考えて、探して、悩みに悩んでやっと決めたんだあ~っ!」
「あの、蒼衣?」
「お金のことなんて、気にする必要ないから!」
「いや、気にする・・・。」
 男のプライドが。
「だって・・・これ、ほとんど陽のお金で買ったんだもん。」
「そうか、ほとんどオレの金なら別に問題ない・・・って!え!?」
「10万が陽のお金で、足りない分はうちの家族から一人1万ずつ補填したの。」
「はあっ!?ち、ちょっと蒼衣。どういうこと?」
「陽は、ただ喜んでもらっておけばいいってこと」
「・・・蒼衣、悪いけどさっぱりわかんない。もう一回、ちゃんと説明して。オレの金って、どういうこと?」
 買ってきたからあとで10万頂戴ね!とか、言われるのだろうか?
抱きついている蒼衣をぺりっと剥がして肩に手を乗せ落ち着かせると、やっと蒼衣が説明を始めた。
「陽、森兄にもらった賞金、月々分割で返してたじゃない?」
「あれは、もらったんじゃなくて、借りたんだよ。出世払いってことで。」
 留学資金に困っていたとき、優勝賞金をそっくりやるよと申し出た森に対して、100万もの大金もらうわけにはいかないと、利息をつけて出世払いにすると申し出たのだ。そうとでもしないと、受け取れなかった。
「でも、満額返し終わっても振込みやめなかったんでしょ?」
「だってそれは・・・利息分だよ。」
「・・・50%の利息なんて聞いたことないって森兄が言ってたけど?」
「それは・・・感謝の分。あの時森の金がなかったら、無事卒業できなかったかもしれないから・・・。」
 奨学金をもらっても、生活費はギリギリだった。あのタイミングで援助してくれたことに、陽は森に感謝をしてもし足りることはない。
「50 万も余分にもらえない、返すっていっても陽が受け取ってくれないからじゃあ物で返そうってことになったの。ただ、あんまり高いもの買うと陽が受け取らない かもしれないから、10万くらいが限界かなあって森兄が言って。で、ちょっと足したら乾燥機も買えるねって話したら、朱里とパパママが聞いてて、みんなで 買うことになったの。」
「はあーっ。なるほどね・・・。」
 確かに、森にもう十分だから振り込むなと言われてもさらに3ヶ月間、10万ずつ振り込んでたから・・・。
「すっかりやられたな・・・。」
 洗濯機をそっと触ってみる。ツルツルしていて、ボタンがたくさんあって。今まで使っていた古い二層式の洗濯機とは、別の機械のようだ。
「もらってくれる?」
「うん・・・。蒼衣が探してくれたんだね、ありがとう。・・・気に入ったよ」
「良かった・・・。あのね、その・・・私から、もうひとつプレゼント・・・みたいなのが、あるんだけど」
「え!だって、これ買うのに1万円出してくれたんでしょ?」
 コンコン。手の甲で、乾燥機を軽く叩く。
「うん、それはそうなんだけど、あの」
「蒼衣。そんなにもらえないから。もう十分だよ。いや、十分すぎる。もうひとつは、じゃあ、来年のクリスマスに、ね?」
「陽、やだ、もらってくれなきゃ・・・」
「ダメダメ。そんな大盤振る舞いしたら、オレ困るよ。」
 寝室の引き出しに入っている、自分が用意したちっぽけなプレゼントを思い出す。ああ、もっと良いもの買っておけば良かったと後悔の念が押し寄せる。蒼衣より3つも年上で、それなりの会社に勤めてるのに、このザマはなんだ?
 しかし、泣きたい気持ちの陽よりも先に、なぜか蒼衣がさめざめと泣き出した。
「蒼衣?どした?」
 蒼衣の顔を覗き込むと、蒼衣が目にたっぷりと涙を浮かべたまま、唇をぷるぷると震わせている。

「陽・・・困る、なんて・・・ひどいよぉ!」

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